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尚美学園大学 総合政策学部 ライフマネジメント学科 スポーツコース 江頭ゼミ

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2013.8.17

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スポーツナビの企画(プロデューサー)という仕事

 僕の仕事は、スポーツナビで「いま、何が起きているのか、この後に何が起きるのか」を探っていく仕事です。インターネットでは、直接お客様の顔は見えません。見えないのですが、お客様の行動は全部数字になって表れてきます。毎日数字が更新されていくので「昨日はこの記事が一番見られたね」とか「この種目が特に見られていたね」というデータをチェックするのが主な仕事になります。この数字はお客様であるユーザーの評価ですし、スポーツファンの行動傾向が示されているわけです。このデータをどう解釈し、より快適にサイトを見ていただくために、何をすればいいかを考え、試行錯誤して答えを探していくのが大きな仕事です。
 たとえば、社内にはコンテンツを生み出す編集者と、それをインターネット上に反映するプログラマーやデザイナーがいます。彼らは同じデータを見ていても感じるポイントが違います。試合結果のページを例に上げると、編集者は得点場面が一目で目に飛び込んでくる文字色やアニメーション、もしくは記事の表現などに関心が行きます。プログラマーやデザイナーは、試合直後とスポーツニュースが始まる23時30分とではユーザーの行動が違う部分に関心を持ち、ページ遷移のボタンに手を加えたいと考える。それぞれ対立することはありませんが、見方が違うわけです。このケースだと両方正解ですね。<ユーザーが使いやすいサイトにする>という目的に向けて、バランスを見ながら「こういう方向性にしたほうがいいんじゃないの」というのを伝えて、それぞれの部門を管轄している人と一緒に相談しながら、サービスに組み込んでいきます。

 元々はWEBサイトの編集者でした。その後Webディレクターという立場を経験し、今はいわゆるプロデューサーと呼ばれる仕事をしています。僕はプログラムもかけないし、デザインセンスもないのですが、割と面倒に思われる全体の調整をするのが好きでした。
 編集者より、今の調整をする仕事の方が楽しいなって思ったのは、記者ではアクセスできない情報にタッチできるからでしょうか。案外、スポーツ報道の記者って柵の外なんですよね。記者の仕事は取材した情報を発信することですし、掴んだ情報は全部記事にしたくなってしまうものです。スポーツ選手は記者に対して口を開く時には、細心の注意を払っています。思っていることを全部記者に吐き出したら「先発○○がチーム批判『監督は無能だ』」みたいな記事が翌日の朝刊に載る可能性があるわけですから当然ですよね。ですから、記者の立ち位置って必ず外側なんですよ。なので、この柵の中に入った方が面白いじゃないかと思ったからですかね。

スペイン語が読めたのがキッカケ

sugimoto.jpg もう少し時間を戻ると、初めてスポーツの仕事をしたいと思ったのは高校生の頃でした。そこから大学に進学して、スペイン語の勉強をしていました。大学2年時にバルセロナに留学していて、帰国後に縁があって今のスポーツナビというサイトのアルバイトを始めました。
 スペイン語を勉強し始めてたのは単純にサッカーが好きだったからです。サッカーの世界でたくさん使われている言語を学ぼうと。たまたま入った学校がバルセロナに留学出来るところでした。スペイン語を勉強しながら、同時に異文化コミュニケーションや社会学を学んびました。やっぱりサッカーってその国の文化を反映させていることがよくありますし、ものすごく多様ですよね。サッカーにはそれぞれに国ごとに歴史があり、そこが凄くおもしろいなと思ってはまりました。

 スペインから帰国したのがちょうど2001年で、サッカーのコンフェデレーションズカップが日本であってメキシコ代表が来ていました。当時は今ほどサッカーの報道も進んでいなくて、選手名を現地の言葉に近づけようという風潮が出てきたばかりでした。僕も帰国直後で何かバイトをしなきゃと思っていた時に、インターネットで知り合った先輩から電話がかかってきて、メキシコ代表の選手の名前をちゃんと読みたいから手伝って欲しいと言われたんです。「じゃあ、遊びに行きますよ」と軽い感じで、そこからバイトが始まりました。何が役に立つかわからないですね。僕の場合はスペイン語でしたが、スポーツ界には個性的なキャリアを持つ人が多い印象を受けますね。

大学時代にNPOを設立

 スペイン語をやり出したのとほぼ同時期にインターネットにもはまっていました。ちょうどネットが個人宅に繋がり始めた時代で、僕もアルバイト代をつぎ込んでPCを買って自宅に回線をひいて、まだ光もADSLもない時代なので電話線でジーッってさせながら(笑)。ネット上ではサッカーの活動をしているいろんな人達と知り合うことができました。スポナビに入るきっかけになった先輩ともそれで知り合っています。

 その時のネット上での交流が縁で、学生時代に日本サポーター協会というNPO組織を作りました。2000年の秋ですね。当時はワールドカップの開催地になったことで、どう対応したらいいのか苦慮している地元の人がとても多くいました。よく聞いてみるとワールドカップが開催されるとフーリガンがやって来ると地元の人たちは思っていました。「試合がある日はシャッターを閉めないといけない」「街が壊されるんじゃないか」と真剣に心配しておられたんです。そこで僕たちは「ワールドカップは危険じゃ無いし、街は壊されないですよ」と説明して歩きました。98年フランス大会の街の様子をプロが撮ったビデオが手元にたまたまあったので、そのビデオを見せて「ワールドカップってこんなに楽しいですよ。普通の観光客が来るんだから、シャッターは閉めなくていいですよ」と「逆に工夫次第であなたたちのお店が儲かりますよ」って感じですね。
 2年かけて各地を回って、だんだんワールドカップ熱も盛り上がってきました。最終的には2002年本番で横浜の赤レンガパークにとある企業がサポータービレッジのようなものを作ってくれました。僕らはボランティアなので運営まではできないですけど、本当に嬉しかったですね。

サッカー日本代表をワールドカップで優勝させたい

 唐突なんですが、僕ね、ワールドカップでサッカー(男子)に優勝してもらいたいんですよ。もっと言うと日本代表が優勝した時に「僕の力によって優勝したんだ」と感じたいんです。日本代表は、いつか僕の努力にまったく関わりなく優勝すると思います。だけど僕が介在したから一大会早く優勝できたとか、そうゆう風に感じたいと常々思っています。
 この仕事をやっていると、仕事もプライベートも一緒になっちゃうんですけど、両方とも「サッカー界のためになっているか、ワールドカップで優勝するためになっているか」という視点で必ずチェックするようにしています。それはその他のスポーツの仕事をする時も変わりません。目の前の仕事の先にワールドカップの優勝があることを意識しています。

 この仕事を続けて行く上では、自分自身が日々の業務や生活の中で、楽しんでいることが大切かなと思っています。僕の場合は“見えないメカニズム”というか、システムがどうなっているのか、という事を知るのが好きです。
 スポーツ業界に入ってみて、どうしてそうなっているのかが解らないことがたくさんありました。例えば、記者クラブに所属していなかった僕たちネットメディアは、Jリーグの試合会場での取材が難しかった時期があります。スタジアムの記者席を使うことが出来ませんでした。その事象の背景にある利害関係や、今までの経緯を丹念に調べて行かないと解らない。こういった現場の様々な事情は、実際に仕事をしていくとだんだんわかってくるんです。そのことが僕は凄く楽しかった。仕組みを知っていくと、他の競技や現場で接する不思議なことがだんだん解るようになってくる。「記者クラブと同じシステムがここにもあるんだな」と推測出来るようになると、だんだん楽しくなくなってきます。

 例えば、メジャーリーグには長打率という指標があります。これはチームやリーグが決めたものではなく、メディアが生み出した指標です。それを野球ファンが面白がり、テレビのアナウンサーがコメントに使う様になった。すると選手や監督も長打率を重視するようになります。結果的に野球の戦術が少し、ほんの少しですが変わりました。そういう事例に出くわした時に、「ああ、これってサッカーにも使えるな」と考えるわけです。こういった内側に入らないと、見えてこないシステムや情報、それを自分の中でしっかりと積み上げていく。その経験や知識をワールドカップ優勝のために使えたらいいなと思っています。

 今になってみると、もともとそういう思考が好きだったから記者になりたいと考えたんですかね。しかしその時は記者という仕事しか知らなかったからで、今の仕事の存在を知っていたら、また違っていたと思います。大学生の時に得られる情報量と社会に出てから得られる情報量は全く違いますから。

学生へのメッセージ

「あなたが入ることによって、スポーツ界にどのような変化をもたらすことが出来ますか」という問いに答えられるように準備しておいてください。
 スポーツ業界に入りたいと思っている人はたくさんいます。必然的にスポーツ業界の側からすると「なぜあなたなのですか?」と聞くことになります。そのときに「私が入ると、あなたのスポーツ業界はこう変わりますよ、もっとよくなりますよ」って分かってもらわないと仲間に入れてはくれません。ですから、ただ「がんばりたいです」ではなく、「私は英語が喋れるので、こうゆう海外のノウハウを持ってこれる。だからあなたのクラブは強くなります」といったようなものが何かしらないと仲間に入れてはもらえません。

 プロスポーツを題材にすることがやっぱり多いので、プロスポーツを見に来ている人の気持ちにきちんと立てる人、そしてその立場に立った上で、今足りないことを自分の考えで発言でき、アイデアがある人でないといけません。一番ダメなのは「○○選手に会いたいから」って人ですね(苦笑)。どんなものでもいいので「自分は今のスポーツ界に○○で貢献できる」という答えを準備しておくというのは、学生の時から意識しておくといいんじゃないでしょうか。

<取材・編集/ 坂本徹旗、白石絵里、中尾海>