title2.png
尚美学園大学 総合政策学部 ライフマネジメント学科 スポーツコース 江頭ゼミ

HOME > Research > ジンバブエ HIV教育支援ー研究

HEAD_ZBA.gif

ZimBaseball.jpg

ジンバブエの現状

アフリカ南部に位置する、ジンバブエ共和国(以下ジンバブエと記す)では、15歳以上49歳以下の成人男女において14.3%の人がHIVに感染している(1)。人口1250万人のうち15歳以上の成人は120万人、15歳以下の子どもが40万人感染している。子どもの感染者40万人は、その多くが母子感染によるものであり、感染者本人がその自覚が無いために第三者へ感染させる危険性が高い。2009年の報告書によると、HIVに感染した大人と共に生活している子どもは118万人。この118万人は生活の中で起こる些細な出来事で感染する危険に直面しているのだ。HIV感染者の血液は最たるもので、感染者の怪我の手当を、未感染者の子どもが行う際にも最大の注意が必要になる。
 ジンバブエで1年間にAIDSで死亡する人は8万3000人。単純計算で毎日227人がAIDSで命を落としている国だ(1)。ジンバブエのHIV感染者率は低下傾向にある。2001年には23.7%まであったものが、2005年に18.4%、そして2009年の調査では14.3%になった。感染者減少の主な要因は、感染者の死亡によるものである。毎年8万人が死亡し、2万人程度が新規感染者となっている。このサイクルが数年続いた為に、感染者率が低下してきているのだ。ジンバブエに最新医療施設を整えた高度先端医療を施せる病院が充足していれば、年間8万人もの死亡者を出すことは回避出来るだろう。HIVのための抗レトロウイルスが全てのHIV感染者に行き渡っていれば、死亡者を減少させることは可能だ。医療が不十分だから、AIDSによる死亡者が多いから、感染者率が低下しているのだ。HIV感染者率が下がったことを、喜ぶことは決して出来ない現実がそこには存在しているである。

(1)UNAIDS : GLOBAL HIV/AIDS RESPONSE Progress Report 2011


ジンバブエにおけるHIV/AIDS教育

 ジンバブエにおけるHIV/AIDSに関する教育は、小学校から開始され高校卒業まで続く。「ライフスキル」という科目で、最低1ヶ月に1度授業が行われている。この学校教育が開始されたのは1980年代後半。それ以前はHIV/AIDSに関する若年層教育が、皆無に近かったことを考えれば大きな改善である。しかしながら、非常に神経質な問題であるため教師たちは積極的な指導を嫌がる。家族に感染者がいることで子どもが差別されたり、家族を亡くした子どもが精神的に不安定になったり、様々な弊害を覚悟で教育を行わなくてはならないため、教師たちが敬遠する傾向が報告されている。
 学校以外場所でHIV/AIDSに関する教育はほとんど行われていない。英国の植民地だった歴史を持つジンバブエにはクリスチャンが多い。その大多数はカトリックだ。教会におけるHIV/AIDSの教育は「性行為の禁止」にならざるを得ない。カトリックは、キリストの母マリアが処女のままキリストを受胎したと教えている。婚前交渉を認めるべくも無い。従ってHIV/AIDSに関する教育は「婚前交渉の禁止」しかできないのである。コンドームの使用を推進することも、安全な性行為に関する教育も出来ない。教会が行なっている婚前交渉の全面否定は現実と乖離してしまい、効果を発揮することが出来ないのだ。敬虔なクリスチャンが多く、日曜日には家族揃って教会で行く姿が散見されるが、HIV/AIDSに関する教育に関しては残念ながら期待出来ないのである。
 ジンバブエでは2006年7月からAIDS戦略計画(ZNASP2006-2010)を実施した。政府はAIDSが国家で対応すべき緊急事態であり、国家非常事態宣言を行いHIV/AIDSのためのケアと治療の普遍的なアクセスを拡充してきた。しかし2008年に起きたハイパーインフレをきっかけに経済が破綻。経済そのものが瀕死の状態であり、HIV/AIDSに充てる予算が無く、国家的な問題でありながら対処出来ていないのが現実である。

ジンバブエ野球協会の取り組み

ZIM-masa.jpg 学校教育、教会によるHIVAIDS教育だけでは不十分だと考えたジンバブエ野球協会の代表者のマンディ氏は、2008年にHIV/AIDS教育を開始したのである。アフリカでマイナースポーツの野球を指導出来る人材がジンバブエには少数しか存在しない。ジンバブエ野球協会は学校からの野球指導の要請を受けて、各地の小学校から高校まで出向き野球教室を行なっている。この要請を受けて実施検討をする際に必ず学校側に確認する事項がある。「野球教室と同時にHIV/AIDS教育を行うこと」だ。教師たちは自ら教育するのに消極的だが、第三者が実施することには肯定的な事が多く歓迎される学校も少なくない。

 野球教室とHIV/AIDS啓蒙を同時に行うことに、果たして効果はあるのだろうか。HIV/AIDSの啓蒙そのものを行うことに意義があり、野球教室は集客機能を果たしているのだろうか。HIV/AIDSの教育は繰り返し行わなければ効果を発揮しない(Nazeema 2006)という研究や、HIV/AIDSに関連した教育を受けた若者は、本人だけでなく周囲に教育によって得た知識を伝播させる傾向がある(Aggleton 2005)、という研究も存在する。第三者的に見ると、ジンバブエ野球協会の行なっているHIV/AIDS教育は無駄になっているとは考えにくい。しかしながら野球と一緒に行うことでの効果は存在するのだろうか。

実験

 2012年7月から8月にかけて、ジンバブエ野球協会が実施する野球教室に同行。同野球教室のプログラム後半で実施される ”HIV Discussion”の実施前と実施後で学習度を測定する調査を実施した。グループAは野球教室+HIV/AIDS教育を実施した子どもたち135人。グループBはHIV/AIDS教育だけを実施した子どもたち132人、に分けて実験を行った。

結果

 その結果、グループAの子どもたちは平均で15ポイント理解度が高く、統計的にも有意な差が存在することがわかった。野球教室と同時にHIV/AIDS教育を実施することで教育効果が高くなる原因はまだ明らかに出来ていない。しかしながら現場では、理由はともあれ効果があることが判明した事が大きな出来事であり、この活動に関わる数多くの人々のモチベーションになった。
 野球教室を実施しながらHIV/AIDS教育を行い続けたとしても、年間8万人を超える死者を減少させることは難しい。砂に水を撒くような活動である。しかし、だからと言って実施することを止めてしまってはいけないのだ。小さな事を積み上げていくことを続けるしか無いのだ。その後毎年何週間かジンバブエでこの活動を継続し調査をも継続中である。